ルツェルンのアトリエ

手仕事だけが持つ魅力

デジタルの時代には、機械式時計そのものがすでに時代錯誤です。しかし、それと同時に、本当に価値ある物に対す る評価と、とりわけ職人技への敬意を最も美しい形で表現したものでもあります。高価な工芸技法を駆使したArtistコレクションのような数量限定シリー ズは、その自覚をさらに高めます。

チクタクと時を刻むこれらの時計は、Chronoswiss本社所在地であるルツェルンに設置されたアトリエ で、一世紀以上にわたって伝承されてきた伝統工芸技法で仕上げられます。このような類いまれな時計のムーブメントが初めて動き始めるまでに、極度の集中力 が求められる工程を60以上も経なければなりません。

ルツェルンのアトリエではArtistコレクションの時計の製造工程に、初めから完成まで一貫して、現在活躍しているマイスターのおじいさんの世代に使用されていたような、伝統的な技法と道具だけを使用しています。二つとしてまったく同じ時計がないのは、そのためです。

現在では正真正銘の骨董品と言われるような歴史を感じさせる機械の中でも、特にアンティークな1924年製曲線 ギョーシェ彫刻機は特筆に価します。この機械はスイスのラ・ショー・ド・フォンで作られたものです。装備とならんで、アトリエの人事もまた難題です。なぜ なら、前述のような伝統工芸技法を身につけている職人は、それに必要な装置と同じくらい見つけるのが困難だからです。

ギョーシェ彫刻

高貴な工芸

ギョーシェ彫りとは、金属にらせん図形やらせん模様を入れる加工法です。この難しい技法は、高級旋盤細工を基にして発達したもので、16~18世紀の欧州では貴族に納入する工芸品だけに使用されていました。

創意に富む時計職人たちは、その旋盤からダイヤルとケースを加工するためのギョーシェ彫刻機を開発したのです。 この機械は仕組みが非常に複雑で、筋力だけで動かすものでした。現在では、この労力と時間のかかる技法をマスターしている職人はごく少人数しかいません。 しかし、この工芸は繊細な様式と造形の並外れた多様性をもたらします。工芸職人たちは、Chronoswissのアトリエに見られるように、曲線ギョー シェ彫刻機を手で動かしてケース、ダイヤル、ムーブメントおよびローターに斬新でありながら古典的なギョーシェ模様を入れています。

ギョーシェ職人は、バイトを中心にしてダイヤルを手で動かします。するとバイトが外側から内側に向かって約 0.1ミリ深さに彫り込んで模様を刻んでいきます。太さわずか0.2ミリという極細の線が何本も集まって、繊細な模様を生み出します。鑑識眼のある人に は、わずかに表れた不規則性に、昔ながらの手作業による彫刻であることが分かります。

これに対し、表面全体が完全に均質なダイヤルを見れば、自動型押し機で作られたことが分かります。この装飾を施 すだけで時計は高級宝飾品になりますが、ChronoswissのArtistコレクションにはさらに多くの芸術的要素を取り入れました。独特の波打つよ うなギョーシェ模様を彫り込んだ表面に透明なエナメル層を焼き付ければ、ギョーシェ模様が持つ深さが際立ち、立体感が生まれます。

七宝焼き 再び脚光を浴びる光沢

七宝焼き工程では、ガラス質の粉末顔料を熱で金属表面に融着させ、金属酸化物を添加すれば色を着けることもでき ます。この工芸は数千年の歴史を持ち、すでに古代エジプトの時代に高級表面加工として評価されていました。懐中時計が発明されてからはダイヤルの表面加工 にも使用されていました。しかし、本物のエナメル製ダイヤルはガラス質で傷つきやすかったため、ほどなく、技術的にはるかに簡単で効率の良い塗装がエナメ ル焼成に取って代わるようになりました。七宝焼きは現在では高級装飾として正当な評価を受けています。

七宝焼きは、完璧な美しい彩色を得るには専用の炉で焼成を7回も繰り返す必要があるため、非常に時間がかかります。こうしてできた層の厚さは、いずれも0.1ミリ以下です。できた層の上にエナメル粉末を塗布する前に、何度も洗浄して透明ではっきりとした色を出します。

にごりを完璧に落とすため、多いときには洗浄を12回繰り返します。それから粉末を水で溶かして丁寧にダイヤル に塗布します。ただし、この時にも焼成中に凹凸ができないように注意せねばなりません。この気の緩みが許されない工程では、不良率が非常に高く、失敗はた とえ小さくても修復不可能です。エナメル焼成したダイヤルを限定製作のArtistコレクションのモデルとして使用できるのは、ダイヤルが厳格な検査に合 格してからです。全層が焼成されてダイヤルが研磨されると、もう一度ギョーシェ彫刻機にかけられます。ここで、非常に壊れやすいエナメルの周囲に切り欠き を入れてブレゲ

ファイバーで縁取りをします。まさに熟練の職人だからこそ為せる技です。この特別コレクション名にふさわしい仕上げと言えるでしょう。本物のエナメルの彩色が持つ味わいと美しさ、光と比類の無い優雅な光沢は、時間をかけて製作した労苦への報賞です。

スケルトン加工 時計作りの高等学派

ムーブメントをスケルトンにする技法は、時計製作の特殊分野として18世紀に誕生しました。その後すっかり忘れ 去れてしまいましたが、1930年代に再び全盛時代を迎えます。これは、ムーブメントの本質的要素、つまり骨格を残して、それ以外の部分を芸術的にそぎ落 とすという加工法です。最初にスケルトン加工のマイスターが、残したい骨格の輪郭線を針で罫書きします。微小な穴を開けた後、余分な材料を鋸で切り落とし ます。

それから角を45°で面取りし、表面をハンドエングレービングとギョーシェ彫刻で装飾します。熟練職人の手仕事 を覗わせるのは、面取りの精巧さだけではありません。部品がぴったり重なり合っているところでも、それがわかります。ムーブメントの中を見る視線を遮らな いためにも、部品ができる限りぴったりと重なっているにこしたことはありません。Artistコレクションの昔ながらの手巻きムーブメン トは1970年代のもので、スケルトン加工の後、時間と手間をかけた装飾が行われます。職人たちが金細工用鋸、やすりを用い、一心不乱にムーブメントに模 様を刻み込みます。さらに、地板のような受けにはギョーシェ模様を入れ、ネジを青焼きします。 とりわけ魅力的なのは、 Chronoswissの標準的なモデルすべてに共通のシースルー仕様の裏蓋からムーブメントの高価な装飾が見える点です。より美しい像を見るには、裏と 表のどちらから見るべきか、悩むところです。一つだけ、確かなことがあります。Artistコレクションモデルは、表と裏のどちらから見ようと、目を見張 るような(工)芸術作品であることは間違いありません。